石川綜合法律事務所

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取扱い分野

雇用問題を考えるいろいろな視点

非正規労働者の問題

imageたとえば「非正規労働者」の問題を考えてみる場合、就労人口の1/3がこの範疇に入る労働者であるということです。最近話題となっている派遣法改正についてはいろいろ議論があるところです。
 「新市場原理」をうちだした政権下の規制緩和で、専門的な業種に限定されていた労働者派遣は、労働者派遣法改正で製造業にも解禁され一気に派遣などの非正規労働者が拡大したのですが、世界不況の影響で、平成20年暮れ以来、マスコミで「雇用崩壊」と騒がれている事態になったことは記憶に新しいところです。
この問題の対処のため、雇用保険の適用拡大、生活、再就職支援などの施策すなわち雇用失業対策を強化する必要があることがわかりました。

この問題の本質は、「解雇ないし雇い止め」が容易にできるという点が、意外だということがあるのだと思います。すなわちこれほど流動性のある「雇用」ないし就労形態はわが国ではほかに見当たらないということなのです。
解雇に関し正当性が要請され、期間雇用者の雇い止めに関しても、一種の判例による法定更新のようになっており、整理解雇についてさえ、厳格な4要件が必要とされる中で、法制度上はきわめて異例であるということです。
しかし、これを非正規労働者をすべて正規労働者化するというような絵空事を言っても問題の解決にはなりません。
この事態が社会問題視されている理由は、以下の点であると思います。

  • ・リーマンショック当時の対応が、日比谷公園にテント村を作る、厚生労働省は講堂を寝泊りに開放するなどの、資本主義勃興期の救貧施策程度であった点
  • ・社会政策が、限られた一部にしか失業給付がなく、失業給付が受けられなかった非正規労働者の残された途は、生活保護申請などしかなかった点
  • ・また労働団体からは、一部のユニオン系の組合以外にこれを労働運動の対象としてとらえる意見、提案がほとんどなかった点

労働市場原理と企業内組合の問題

アメリカのように巨大な権益団体と化した企業横断的な労働組合があるとか、ヨーロッパにみられるような、雇用調整に対する社会政策があって、雇用に高い流動性をもたらさなければこのような事態が起こることは必至であったということです。
わが国の労働組合はほとんどが企業内組合であります。

image 昭和30年ごろから、私企業では、理念先行で生産性をはすかいに見る、労働運動を排斥し、良識ある企業内組合が確立されていきました。そのため、労使協調の関係を築き上げわが国の経済発展に多大な寄与が為されました。
しかし、逆に言えば、ひとつの閉鎖社会を作り出したということです。
そのうえ、賃金が手厚く保護され、人件費コストも調整することは簡単にできず労働市場の硬直化要因となっています。解雇に厳格な要件が必要という点では、「雇用の流動性」はほとんどありませんでした。
一方、その企業内組合に包摂されない期間労働者、パートなどの本来は補助的な、景気変動に伴う人員調整のバッファーとしての職種であったはずの労働者ついてはどうであったでしょうか。
企業内組合やその連合組織は、これらの労働者は組織外において、雇用の保障を含め労働条件の向上という点ではほとんど機能しませんでした。
すなわちわが国では、この点、労働組合の運動が、非正規労働者の雇用の保障についての社会的機能を果たしえなかったということです。
本来労働組合の運動としてなされるはずのこの機能を果たしたのは、判例と立法でした。期間雇用者に判例による法定更新ともいえる法理が適用されるようになっていきました。また最近のいわゆるパート労働法なども立法による救済面が強く出ています。
市場原理といいながら、アダムスミスが『レッセフェール』と呼んだ自然調和がありえないことは歴史的に証明された事実であるし、資本主義が「勤労は美徳である」という精神の下にしか成立し得ないとするマックスウエーバーの指摘をいまさら繰り返すつもりはありませんが、どうもこのたびの「新市場原理」とやらは、よい面もあったのですが、実需を伴わないものであったし、ひたすら投機的側面を助長しただけで、社会政策的観点から見れば弱者を切り捨てる傾向が強く、社会的に保護すべき部分を忘れていたのかも知れません。
現在の不況と雇用問題を解決するため、どのような施策が必要なのか、現時点では、企業だけに努力を求めたり、『企業エゴ』といって批判しているだけでは解決しえないということです。市場原理とその修正原理をどこまで組み合わせるかは国家的な経済戦略であり、労働市場においては、労働組合もその重要なファクターであるからです。

派遣法などの問題

派遣法とは職業安定法の有料職業紹介から派生してきたものです。
ひとつ例を挙げますと、この有料職業紹介において、ホテルや宴会場で働く配膳人と呼ばれる職種があります。
ところが、この配膳人が30年間正社員と同じく働いても、法的には「日雇い」ということになっています。
学生の短期アルバイトならまだしも、30~10年同一職場で働いている配膳人が「日雇い」というのはどうも紹介所に支払う紹介手数料が日々発生するという法的構成をオーソライズするだけのためのようです。
するとホテルや宴会場と長期に亘り就労している配膳人との雇用契約の実質は別に考えざるを得ません。ご興味があれば、判決 東京地方裁判所平成16年4月23日の判例を読んでみてください。
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