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石川清隆コラム

20世紀の嘘(その3)「音楽のかわりに荒唐無稽」?!- ショスタコービッチ ー(2) image話を、第二次世界大戦後にもどします。1946年に始まった「ジダーノフ批判」により、ソビエトの音楽界を含めすべての芸術的創作は、再び「ご指導」の対象になりました。要はソビエト社会主義の国策に合わない表現はこの批判の対象になり、西欧的な、前衛な芸術などは批判の筆頭になったことは言うまでもありません。
このときまでにショスタコーヴィチは交響曲を9曲書き上げていて、スターリンなどは、第9交響曲はベートーベンのそれを凌ぐ、大曲を期待していたと言われていました。しかし、第9交響曲は、軽妙洒脱な小交響曲でパロディめいた曲でした。どう聴いても「ソ連の勝利を祝おうとした曲」という感じはしません。

前回に続き、ショスタコーヴィチの曲をご紹介します。

交響曲第10番ホ短調op.93

20世紀の曲で一番暗く、不安な曲の一つで、「決して一人では聴かないでください」というのが、この交響曲です。
1953年、スターリンが死去しました。
「交響曲第9番」に、スターリンや国家を賛美した歓喜の歌の片鱗すらかけらも見られなかったので、ショスタコービッチは、8年の沈黙を余儀なくされたと言われています。この第10番作品93はスターリンの死後速筆で書かれたとか、書き終えていたが、机の引き出しにしまわれていたとか伝えられています。

第一楽章は長大で、重々しい旋律で暗い地獄絵図と言い知れぬ怒りを感じます。ここでの表現内容は、ムソルグスキーの「魔の山」なぞ、テーマパークの幽霊屋敷程度に思えます。

第二楽章は短い楽章、公式にはショスタコービッチはこの交響曲で「真の交響的アレグロを書きたかった」というのですが、ヴォルコフ編「ショスタコービッチの証言」は、この楽章は「スターリンの音楽的肖像など」だと書いてあります。リズミカルで百鬼夜行の中を狂気のピエロが踊りにならない踊りをしているようです。

第三楽章は、不協和音と変わったテンポ、おどけたようで怖い曲、私は、「スターリンの音楽的肖像」というならこちらのほうがあってそうな気がするんですが・・・。

第四楽章は、静かに始まり、諦念に至ったような淡い明るさがただよい、そのまま華々しく終わっていくような曲。
カラヤンはショスタコービッチのこの「第10番」を3回ほど録音しています。
第四楽章などに出現する音符D、S(Es)、C、Hは、ドミトリー・ショスタコービッチ自身を表しているのだといわれています

ヴァイオリン協奏曲 第1番イ短調op.77

昨年、グルジアの女性ヴァイオリニストがN響とこの曲を演奏していました。この曲の最高の名演の一つで、素晴らしくただただ聞き惚れました。
交響曲10番と前後してジダーノフ批判の真っただ中の1948年頃に完成されたといわれるこの曲もスターリン死後に発表されました。
はじめて聴いて印象にのこるのは、第三楽章と、長大な孤独な人のモノローグのようなカデンツァを経て、一気呵成に激しいテンポの終楽章に至る構成です。
第三楽章パッサカリアの主題は、聴いているだけで涙が出てくるような悲しみに満ちています。自分や人々に降りかかった悲劇の描写であるのでしょうか、ヴァイオリンの独奏部分の旋律は学生時代にはじめて聴いたとき、"この世にこれほどの悲しさがあるか"と思わせられました。
第一楽章は、暗く重々しい旋律に満ちていて、第二楽章は、ユダヤ音楽風の主題と言われていますが、ちょっとおどけたような感じします。
前述のグルジアの女性ヴァイオリニストは、リサ・バティアシュヴィリでこの曲の演奏としたら最高のものでしょう。
スターリンもそういえばグルジア出身で本名も"何とかシュガシビリ"だったと思います。
スターリン時代の悲劇の塊のようなこの曲を、21世紀になって、やはりグルジアのヴァイオリニストが演奏するというのは皮肉かもしれませんね。

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