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石川清隆コラム

「珍説・奇説」と「通説」―恐竜たち 古い竜についての新しい考え―コラム18

1.現代の「珍説・奇説」と「通説」

子供を連れて博物館巡りをしていた頃に思ったことです。僕が子供から学生の頃まで、まことしやかに珍説奇説が流布していました。それも通説として・・・。
逆に地震のメカニズムを説明する現在のプレートテクトニクス理論の基本的な考え方となっているドイツの学者ヴェーゲナーが提唱した「大陸移動説」 (注1) は僕が学生のころまでメルカトル図法の世界地図を見るときの楽しい「珍説」扱いでした。
現在では「ザトウクジラの歌」 (注2) はほとんどの人が知っていますが、その当時はどこかの新書本には「クジラには声帯がないから、声も出せないし、まして歌うなんてありえない」とか書いてありました。
外国でも捕鯨漁師が「Singing whale」と呼んだり、日本でも「クジラの歌」の伝承があったようですが、どうも手足が退化し、図体だけが大きくなったのは、「昔の恐竜のような滅びに至る過程」という先入観があったのかもしれません。
ところが今では、幕張メッセ等で開催される大恐竜展などは映画『ジュラシック・パーク』などで俊敏な恐竜をイメージできるので、子供たちも、大はしゃぎで見ています。
しかし、確かにわれわれが学生の頃までは恐竜は「脳はクルミ大しかなく、しっぽに岩が落ちてきても痛いと感じるまで3秒かかる、愚鈍な生物」というのが通説でした。

2.マクローリン著「恐竜たち 古い竜についての新しい考え」

恐竜は、中生代 (注3) 三畳紀末に現れ、俊敏な動物で多様な形態に発展し巨大化したものもあったが約6,550万年前の白亜紀末期に絶滅した (注4) と理解されています。
この理解の転機となった本がマクローリン「恐竜たち 古い竜についての新しい考え」(1982) (注5) でした。
マクローリンは、「恐竜は温血動物であって、俊敏であった」と骨髄の構造などから説明し、多数の再現イラストを加えました。例えばトリケラトプスの再現図、小型のドロマエロサウルスが両眼視できる獰猛なハンターであったとか、見ているだけで納得しそうな本に構成していました。
鳥類と恐竜類の類似点として脳の構造(線状体の発達、大きさの割に機能が高い)排泄器官の構造(鳥類の排泄器官のほうがすぐれている)などを挙げ、哺乳類よりも恐竜類のほうが生物的に進化していて優位で、人間を含む哺乳類のご先祖様がなぜネズミほどの大きさで、生物連鎖の頂点にいなかったかを丹念に説明していました。 (注6) また恐竜は二足歩行の種が多く、小型の種も多くいたことも指摘していました (注7)
  学者が恐竜を「痛みを感じるのに3秒かかる」愚鈍な生物と言っても、一般人が思い描く恐竜は「ゴジラ」のような、パワフルなもので、ティラノサウルスもそのように漠然とイメージされていました。現在はかなり充実してきましたが、かつての上野の国立科学博物館には、旧館(当時本館)の中央ホールにアロサウルスの複製骨格標本(1964年4月頃~1973年頃)ぐらいしかなかったのです。当時、子供たちは、なんでティラノサウルスでないのか残念がりながらも、それでも食い入るように見ていました。

3.「K-T境界」 (注8)

その後、1991年メキシコ・ユカタン半島に、直径180キロの巨大クレーターがありこのクレーターを形成した直径10kmほどの隕石の衝突が恐竜絶滅の原因だとする説が提唱されるなどしました(隕石などの衝突が絶滅原因という説はこれ以前からありましたが、衝突地点が特定されたということです)。現在では「のろまだから滅びちゃった」という考え方をとる人はいません。
現在でも恐竜の恒温動物説というのは研究がつづけられているなど、マクローリンの個々の論拠については異論があり、マクローリンの再現図も否定的に扱われていますが、恐竜があの時絶滅していなければ、生物連鎖に空白は生まれず、現在のような哺乳類が全盛し人類が霊長類の頂点にいるという生態系は生まれなかったことは容易に理解できます。この本が与えたインパクトは、強烈なものでした。

4.悪乗り?!「アフターマン」

マクローリンの本と前後して出版された本に「アフターマン」 (注9) があります。 人類滅亡後(5000万年後、なぜ人類が滅亡したのかは、はっきり書いてありません)の地球を支配する動物達を図解入りで描くものでした。
生物界の大量絶滅について「K-T境界」古生代ペルム紀末の(P-T境界)などの発見、およびその後の生態系の形成過程についての見識が根底にあるのでしょうか、適応放散や収斂進化など、進化論的にSFでない一般的科学解説書という評価が定着しているようです。
鯨類の後に完全に海生になりクジラほど巨大化したペンギン「ヴォーテックス」、レイヨウの子孫である大型の草食動物で、かつてのゾウやサイのように大きな体と太い四肢を持ち、体重10トンにもなる「ジャイガンテロープ」などなど。
確か、知的生物は「進化にとって知能はあまり有用でなかった」とかで、腐肉を装って捕食する変な生物が描かれていたようでしたが・・・・。

子供を連れて博物館巡りをしていなければ、これらのことは思い出さなかったかもしれません。今回触れませんでしたが、国立科学博物館の人類の進化コーナーもかなり充実しています。そこで僕が小学生の時からあるネアンデルタール人の直径10cmほどの赤ちゃんの頭骨が未だに展示されています。その時母が僕に言った言葉、「お母さんがとても丁寧に埋葬しなければ、こんなもろいものは残らない・・」、気が付いたら同じことを僕が子供に言っていました。旧人と昔呼ばれていた、ネアンデルタール人を含めて人類進化の通説もずいぶん変わったようです・・・・。博物館巡りも色々なことを思い出させてくれました。

(注1):
アルフレート・ヴェーゲナー『大陸と海洋の起源』都城秋穂・紫藤文子訳、岩波文庫、上・下巻。
「大西洋両岸のアフリカ大陸と南アメリカ大陸を、海岸線の形で見るとかつては繋がっていたとか・・・・」二つの大陸の地層、植物相など丹念に記述してありますが。
新しい地球観 / 上田誠也著 岩波書店 , 1971 (岩波新書 ; G-16, 青版 779) でマントル対流とともに紹介されていた。
(注2):
ザトウクジラがコミュニケーションを目的としてクジラが発する音で、その声が、人間の歌唱のように聞こえるため「歌」とよばれる。音域はパイプオルガンよりも広いとかいう人もいる。声帯がないのでどういうメカニズムで発声が成立しているのか、科学的に未確認。1970年代に反捕鯨運動家たちが、"街宣車"で流して、反捕鯨を訴えて広く知られるようになった。
映画『スタートレックIV 故郷への長い道』では"ザトウクジラの歌"が中心に取り上げられている。
1977年無人惑星探査機であるボイジャー (Voyager) に積み込まれたレコードには、惑星地球を代表する様々な音[バッハの音楽などとともに]ザトウクジラの歌も収録されている。
(注3):
(古生代・中生代・新生代と分かれる地質時代の大きな区分の一つ。約2億5000万年前から約6500万年前に相当、ジュラ紀約2億1200万年前~約1億4300万年前、白亜紀 約1億4300万年前~約6500万年前、恐竜はこの期間を通じて繁栄した。
(注4):
アラモサウルスなどのごく一部の属はこれを生き延びた可能性が高いとされ。なお、恐竜から分岐進化した鳥類は現在でも繁栄している。(ウキぺディア)
(注5):
「恐竜たち 古い竜についての新しい考え」著者名 J.C.マクローリン作/画
小畠郁生・澤田賢治訳 出版社 岩波書店発行年 昭57(1982)
本文で「恐竜類」というのをこの本では「アルコサウルス類」と呼ぶべきと提唱していた。また恐竜は二足歩行の種が多いとし常時二足歩行をしていた種と、竜脚類や鳥盤類の一部の様な四足歩行の恐竜でも体重の大半は後足が支える形となっていると言う点も指摘していた。
(注6):
これについてJ. C.マクローリン「消えた竜 : 哺乳類の先祖についての新しい考え」小畠郁生・平野弘道訳 岩波書店がある。哺乳類の思考方法に帰納的なものを加えたのは、実は暗闇で断片的な情報から全体を推測することによってく得されたようなことまで書いてあった。
(注7):
エンゲルス著「猿が人間になるについての労働の役割」(1867)あのマルクス・エンゲルス全集のうちに収録されていた、珍説本「猿が人間に進化した決定的要素は二足歩行だ・・」とか。
「(どこかで進化していた猿が、平地を歩くのに手の助けをかりる習慣をなくし次第に直立して歩く習わしを身につけはじめた)。これをもって、猿から人間に移行するための決定的な一歩が踏み出されたのである。」
「手は労働のための器官であるばかりではない。それはまた労働の産物でもある。」だそう。
恐竜の多くの種は二足歩行をしながら2億年近く進化していた。猿人から人への進化はたかが数百万年きっと人間以上の知的恐竜がたくさんいたのでしょう。
(注8):
「K-T境界」中生界白亜系と新生界古第三系を境する粘土層(通称K-T境界層)に含まれるイリジウムの濃度が他の地層の数十倍であり、かつ、イリジウムは地殻には殆ど存在しないことから、これが隕石の衝突によってもたらされたものであるとする説。
また古生代ペルム紀末(P-T境界)の大量絶滅により、陸上でそれまで繁栄していた大半の生物は絶滅し、生き残ったものは小型のものだけであった。
    大半が空白地帯となった生態系に、様々なグループが競って進化、進出し、空白を埋め一つが恐竜の祖先で他は哺乳類の祖先を含む単弓類と呼ばれる類などであった。
(注9):
『アフターマン』(After Man):スコットランドのサイエンスライターである、ドゥーガル・ディクソン(1981年)。邦訳(1982年)の副題は『人類滅亡後の地球を支配する動物世界』。
なおディクソンには、『新恐竜』(6500万年前の大絶滅が回避された世界を想定し、恐竜人間まででてくる)や、人類が進化、分化した生物を考察した『マンアフターマン』、やたら、イカが出てくる印象の『フューチャー・イズ・ワイルド』があり、いずれも面白い本です。
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